2026.09.30

「スマホを見ていると、いつのまにか肩甲骨のあたりが痛い」「背中や肩甲骨まわりが痛くて同じ姿勢で座り続けるのがつらい」。このような症状に悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
肩甲骨まわりの痛みには、日頃の姿勢からくる筋肉や腱、靭帯、関節への負担だけでなく、運動不足やストレスなどさまざまな要因も関係します。今回は、肩甲骨まわりが痛くなる原因をはじめ、日常生活で行えるセルフケアの方法や予防のためのエクササイズやストレッチなど、整形外科医・金岡恒治先生に伺った内容をもとにわかりやすく解説します。痛みを放置せず、正しいケアを日頃から行いましょう。

監修医:金岡 恒治(かねおか こうじ)
筑波大学整形外科講師を経て、2007年より早稲田大学にてスポーツ医学および運動療法の教育・研究に従事。体幹深部筋研究に基づく運動療法を用いた腰痛治療研究の第一人者。オリンピック帯同ドクターを長年務め、現在はスポーツ庁健康スポーツ部会委員などを務め中高齢者の運動器障害予防や健康寿命延長に尽力している。2021年10月から腰痛運動療法を提供する「コアトリム ステーション」にてセカンドオピニオン外来を担当。
※先生のご所属は記事掲載当時のものとなります。
● 肩甲骨まわりの構造と肩甲骨まわりが痛くなる主な原因を解説
● 肩甲骨まわりに痛みがある時に考えられる疾患と受診の目安
● 肩甲骨まわりの痛みを予防するための正しいエクササイズやストレッチ
肩甲骨まわりには、上腕骨と肩甲骨の間の肩関節、肩甲骨と鎖骨の間の肩鎖関節、鎖骨と胸骨の間の胸鎖関節で構成する肩や、後頭部から出て肩甲骨につながる僧帽筋、肩甲骨から上腕骨につながる三角筋といった表層の筋肉の他、深部にある菱形筋や腱などもあります。
さらに、骨や筋肉、腱が入り組んだ中を、頚動脈・頚静脈からつながる重要な血管や、頚椎から出て肩甲骨、腕、手へとつながる数多くの神経が、複雑に交差しながら通っています。
この複雑さから、ちょっとした異常でこり・痛み・しびれが多発しやすい部位と言えます。
上腕骨と肩甲骨の間の肩関節は、人体の関節のうちで唯一、骨がぶら下がる構造をしています。この構造のおかげで、肩関節は可動域が大きく、さまざまな方向に動くことができます。その反面、重さが片側で5~6kgもある腕を保持するため、肩まわりの筋肉や腱、靭帯には大きな負担がかかっています。
デスクワークなどで同じ姿勢を長く続けると、筋肉が緊張して固まり、血流の悪化から疲労物質が蓄積し、痛みや疲労感を覚えるようになります。
また、筋肉を長時間動かさずにいると、筋肉の痛み以外に、筋膜どうしが癒着することによって痛みが現れることもあります。筋膜には筋肉が動く時の滑りをよくする働きがありますが、筋膜どうしがくっついてしまうと、スムーズな動きが損なわれ、ぎくしゃくしてきます。すると周辺の神経に刺激を与え、肩の痛みや張りなどを感じるようになるのです。
長時間のデスクワークや、うつむき姿勢で行う作業の時には、頭蓋骨下部から背中・腰にかけての背面全体をカバーする脊柱起立筋や、頭蓋骨下部から鎖骨・肩甲骨・背中に広がる僧帽筋は、姿勢を保つために伸びながら緊張する「遠心性収縮」という状態になります。
脊柱起立筋や僧帽筋は大きくて長く、強い筋肉ですが、同じような姿勢や動作を長時間続け、「遠心性収縮」の状態が続くと、筋肉の緊張が常態化します。この状態を「過緊張」と言います。
筋肉が過緊張状態になると、どんなに楽な姿勢を取っても筋肉は硬くなったままです。こうなると緊張した筋肉が常に血管を圧迫して血流が悪化、疲労物質が滞って、不快感・だるさ・痛みが強まります。
さらに、過緊張状態の筋肉はこり固まって動かないので、筋膜との間で癒着が起こりがちです。筋膜は筋肉と周囲の組織の間にあって、筋肉をあるべき位置に保持しつつ、滑らかに動くようにする潤滑油のような働きがあります。それが癒着すると筋肉と皮膚の間の滑りが悪くなり、少し筋肉を動かしただけで皮膚まで引っぱられてしまいます。これにより神経が刺激されることでも、痛みや張りを感じるようになります。
スマホを操作する時に取りがちな前かがみ姿勢の時には、頭蓋骨下部から背中・腰にかけての背面全体をカバーする脊柱起立筋や、頭蓋骨下部から鎖骨・肩甲骨・背中に広がる僧帽筋などが引き伸ばされる遠心性収縮の状態になり、特に首に近い上部は、強い緊張にさらされます。
また、前かがみの姿勢がクセになると、肩甲骨の内側にある菱形筋(りょうけいきん)にも悪影響を与えます。菱形筋は背骨と肩甲骨をつなぎ、背中の中央方向へ肩甲骨を引き寄せる筋肉です。前かがみの姿勢のクセで菱形筋を働かせずにいると、肩甲骨が離れて開き、肩が前方に出て、さらに背中が丸まります。
背中が丸まった猫背のままになってしまうと、背中や肩周辺の筋肉・関節にかかる負担がいっそう増して、こりや痛みが多発するようになるのです。
左右の肩甲骨を中央に引き寄せる深部筋「菱形筋」が衰えると、猫背のような悪い姿勢が常態化します。猫背が常態化してしまうと、重い頭や腕を支えて姿勢を維持するための筋肉が緊張しっぱなしになることや、肩甲骨の動きが悪くなることによる関節への負担が増すことで、いずれ専門的な治療が必要になる場合があります。
肩甲骨まわりの痛みが続く場合、思わぬ疾患が背景に潜んでいる可能性があります。適切な対処につなげるためにも、まずは考えられる代表的な疾患を確認しましょう。
長時間のデスクワークや、スマホ操作などで前かがみの姿勢を取り続けたりすることで、肩甲骨が前にせり出した前傾姿勢、いわゆる猫背の状態になってしまいます。その結果、上部僧帽筋、肩甲挙筋、脊柱起立筋といった首、肩まわりの筋肉に負担がかかり、こりが生じます。
肩甲骨がせり出さないよう背骨に引き寄せる働きを持つのが深部にある菱形筋です。菱形筋がうまく機能せず、肩甲骨が左右に開くと、肩が前に出る、猫背になるなど、姿勢も悪くなりやすい。すると、体幹がうまく使えなくなったり、他の筋肉の負担が大きくなるため、疲れやすくなることもあります。
肩こりの原因について詳しく知りたい方は次の記事をチェックしてください。
「『肩こり』の原因や種類は?日常生活からくる肩こりの予防方法をご紹介」の記事へ
四十肩・五十肩とも呼ばれ、肩の痛みで腕が上がらず着替えにも不自由します。首や肩が体の前に出ると肩甲骨が開き、肩関節の動きが悪くなります。すると、肩周辺の組織に炎症が起こりやすくなり、五十肩を招くこともあります。初期の痛みが強い時期は、腕を無理に上げず炎症が治まるのを待つべきですが、それを過ぎたら、首や肩が前に出ない正しい姿勢に整え、肩関節を柔軟に動くようにすることが重要です。
腕の骨と肩甲骨をつなぐ板状の腱が切れたり、切れかかったりすることを腱板断裂と言います。加齢で衰えた腱に負担がかかることで起こりやすく、60代の4人に1人が腱板断裂であるという報告もあり、五十肩と誤解されているケースもよく見られます。炎症が起こって肩が痛んだり、完全に腱が切れた場合は、腕が脱力して上げにくくなったりします。予防や改善には首や肩が前に出ない姿勢を保ち、肩に偏った力がかからないようにすることが大切です。また、肩の深部筋を活性化して、切れた腱の働きを補うことも重要です。
背骨の間にはクッションの役割を担う椎間板という軟骨があります。加齢や過度の負担によって椎間板がつぶれて、椎間板の内部がはみ出た状態が頚椎椎間板ヘルニアです。特に症状のない中高齢者でもMRIでは5~8割の人にはヘルニアを認めていて、加齢による自然な変化ですが、神経を圧迫して炎症が起きると症状を出します。
症状の程度によって異なりますが、保存療法で数週間~数か月かけて改善するケースもあります。一方で、しびれや筋力低下が強い場合、さらには手足の動きが悪くなった場合は手術が検討されることもあります。
首・肩・腕の痛み・しびれは、怪我が原因の場合を除けば、無意識のうちに続けてきた姿勢や動作のクセから来るものがほとんどです。初期の痛みが強い時期が過ぎたら、どのような姿勢や動作をしても負担が偏らない、正しい体の使い方を身に付けることが、根本的な症状改善への近道です。運動療法の指導に熱心な整形外科を受診するのもいいでしょう。
もし、手足がマヒ、力が入らないなどの症状があったら、すぐに整形外科や脊椎外科の専門医を受診しましょう。場合により緊急的な手術が必要になることもあります。
また、首・肩・腕の痛み・しびれは思わぬ病気からも起こります。気になる症状がある人は、症状に応じて専門の医師に相談するといいでしょう。
肩甲骨まわりの痛みを予防するためには、日々のライフスタイルを見直す必要があります。普段の生活の中ですぐに取り入れられるセルフケアのポイント、おすすめのエクササイズ、ストレッチをご紹介します。
デスクワークやスマホ操作の際、顔が下を向いたりあごが突き出たりする姿勢が続くと、頭の重みが首に直接かかるため大きな負担となります。このような不良姿勢が続くと、無意識のうちに頭が前傾したまま固定されてしまうため、日頃から姿勢を意識することが大切です。
改善のポイントとして、まずは座っている時に軽くあごをひき、肩甲骨を寄せるように意識すると、猫背にならず良い姿勢をキープしやすくなります。あわせて、ノートパソコンの画面の高さを調整したり、スマホを見る位置を高くしたりするなど、目線が下がらないように作業環境を整えることも首の前傾を軽減するために効果的です。
パソコンに向かう時の正しい姿勢を知りたい方は次の記事をチェックしてください。
「パソコンに向かう姿勢が原因?肩こり・腰痛が起こる原因と正しい姿勢を保つためのデスク周りの調整法をご紹介」の記事へ >
肩甲骨まわりの痛みを防ぐためには、同じ姿勢を長時間続けないことが大切です。特にデスクワークや立ち仕事などは無意識に姿勢が崩れがちなため、適度に休憩を挟んで意識的に首や肩甲骨を動かしましょう。
また、日常の姿勢の癖そのものを見直すことも重要です。猫背や巻き肩のままだと、ほぐした筋肉がすぐに戻って肩こりを悪化させてしまいます。
肩甲骨まわりの筋肉の働きを改善して、良い姿勢を保ちやすくするためのエクササイズやストレッチをご紹介します。姿勢を改善することで、日常的に肩甲骨にかかる負担を軽くすることにつながるため、毎日実践しましょう。
1.肩を上げ下げするエクササイズ
肩周辺の筋肉をほぐし、肩甲骨の柔軟な動きを促します。
1. 椅子に座って軽くあごを引き、背すじを伸ばす
2. 鼻から息を吸いながら、できるだけ両肩を上げて力を入れ5秒間キープする
3. 口から息を吐いて、肩の力を一気に抜き5秒間休む
4. 2〜3を5回繰り返す。これを1日2~3セットを目安に行う
2.肩甲骨を寄せるエクササイズ
肩甲骨を引き寄せる菱形筋の働きを高めます。
1. 椅子に座って軽くあごを引き、背すじを伸ばす
2. 鼻から息を吸いながら、手のひらを内側に向け、ゆっくりとバンザイし、5秒間キープする
3. 口から息を吐きながら、手のひらを外側に向けつつゆっくりとひじを下げていく
4. 下ろしきったところで肩甲骨が寄る感覚を確かめながら5秒間キープする
5. 2〜4を5回繰り返す。これを1日2~3セットを目安に行う
肩甲骨まわりのストレッチにおすすめの「肩甲骨はがし」ストレッチが気になる方は次の記事をチェックしてください。
「肩こりにおすすめの『肩甲骨はがし』とは?簡単にできるセルフチェックとストレッチ法をご紹介」の記事へ
Q1:肩甲骨まわりの痛みの主な原因は何ですか?
A1:肩甲骨まわりの痛みのほとんどは、不良姿勢・長時間同じ姿勢を続けることによって筋肉に過大な負担がかかることが原因としてあげられます。ただ、肩甲骨まわりの痛みは思わぬ病気からも起こります。気になる症状がある人は、症状に応じて専門医に相談すべきでしょう。
Q2:肩甲骨まわりの痛みはどのような場合に整形外科などの医療機関を受診すべきですか?
A2:以下のいずれかに該当する場合は、早めに整形外科などの医療機関を受診することをおすすめします。
• 安静にしていても痛みが取れない
• 数日経っても痛みが増している
• 首から手指の強い痛みの他に、しびれたり力が入りにくい
肩甲骨まわりの痛みのほとんどは、背中の深部にある筋肉が働かないまま、不良姿勢や長時間のデスクワークを続けることによって背中が丸くなり、表層にある筋肉に過大な負担がかかって引き起こされます。深部にある筋肉を働かせ、体を滑らかに動かせるようになれば、筋肉がほぐれ、筋膜どうしの滑りも改善して症状が改善します。
まずは日常生活の注意点を意識しながら、日々のエクササイズやストレッチを継続し、肩甲骨まわりに負担を溜め込まない体づくりを目指しましょう。ただし、セルフケアで痛みが悪化する、痛みが改善しない場合は、早めに整形外科などの医療機関を受診しましょう。
MEDIAID(メディエイド)は整形外科で
確かな実績を持つ
日本シグマックスの
サポーター専業ブランドです。
※1:㈱日本能率協会総合研究所調べ。2021~2024年度メーカー出荷額ベース
※2:㈱日本能率協会総合研究所調べ。2020〜2024年度メーカー出荷枚数ベース