MEDIAIDクリニック

「手」の痛み診療室 | MEDIAIDクリニック |

監修医:平田 仁
(ひらた ひとし)

名古屋大学大学院医学系研究科 個別化医療技術開発講座 特任教授、人間拡張・手外科学講座 前教授

1982年三重大学医学部卒業。三重大学医学部附属病院を経て、1996年学位(医学博士)取得。その後、名古屋大学大学院医学系研究科運動・形態外科学手の外科学教授、名古屋大学予防早期医療創成センター教授を歴任。2022年4月より、名古屋大学大学院医学系研究科 個別化医療技術開発講座特任教授。手外科、マイクロサージャリー、末梢神経外科を専門とする整形外科医。

手の痛みを感じたら

はじめに

手や指は、繊細な動きが要求され、鋭敏な感覚を持ちます。指の感覚は人体で最も鋭敏で、指で物を持つだけで立体的に物体を認識する立体認知機能を備えています。そのため、手や指の痛みがあると気付きやすく、また日常生活にすぐに影響が出てしまいます。特に重要な手の機能としては、つまむことと握ることです。

ある論文*では、生活に影響を与える痛みについての総数のうち、
・腰痛の割合は37.7%(男性34.2%、女性39.4%)
・膝痛は32.7%(男性27.9%、女性35.1%)
・股関節痛は1.86%(男性0.58%、女性2.56%)
・手の痛み7.4%(男性5.7%、女性8.2%)
※吉村 典子(2020)ペインクリニック 41,862-866 真興交易医書出版部
であるとされています。股関節よりも手の痛みを感じている人の割合は多く、また男性よりも女性のほうが手の痛みを抱えていることが分かっています。
ここでは、手の痛みとその構造、次に症例のメカニズムと治療・ケアについて解説します。

手の痛みの特徴

手は繊細な作業や重いものを持ち上げることができます。それだけに手首や指の関節・靱帯・腱・腱鞘などの負担は大きくなります。そのため、関節の変形や靱帯の肥厚(腫れて厚くなること)、腱鞘炎が起きやすい部位であり、手をよく使う方ほど痛みが生じるリスクは高くなります。また、感覚も鋭敏なため、少しの痺れでも気付くことが多いです。特に仕事で手をよく使う方や更年期、周産期の女性が手の痛みに悩まされることが多くあります。

治療・ケアの動向

手の痛みの原因はさまざまであり、痛みや痺れを感じる組織としては、骨や関節、靱帯、腱、腱鞘、筋肉、神経、血管などがあります。痛みと一概にいっても原因は様々です。医師は痛みの部位を詳細に観察する視診や、押したり動かして状態を評価する触診、さらにレントゲンや超音波画像診断装置、時にはMRIなどを用いて、それが関節炎なのか、神経痛なのか、腱鞘炎なのかを正確に判別していきます。痛みが強い場合や症状が長く続く場合には、自身で判断せず医療機関を受診しましょう。

  • ・骨の痛みとしては、外傷性の骨折や病的骨折、骨腫瘍、骨髄炎などがあります。
  • ・関節の痛みとしては、変形性関節症(変形性手関節症、母指CM関節症など)や関節リウマチ、痛風、偽痛風、感染性関節炎などがあります。
  • ・靱帯や腱、腱鞘の痛みとしては、靱帯損傷や腱断裂、腱鞘炎(ばね指、ドケルバン病)などがあります。
  • ・神経痛としては、神経根障害や絞扼性神経障害、ガングリオンによる神経圧迫によるものなどがあります。
  • ・血管の痛みとしては、膠原病に伴う血管炎による血行障害、またリンパ浮腫などがあります。

以下では代表的な疾患ごとに解説していきます。

手の痛み 代表的な症例とケア

腱鞘炎

症例概要(症状・リスク)

腱とは筋肉が骨に付着する部分の結合組織であり、腱鞘とはその腱が通るトンネルのことです。腕や脚では、関節を曲げ伸ばしする筋肉の多くが前腕(肘と手首の間)や下腿(膝と足首の間)にあり、そこから長く伸び出た腱が滑走して関節を動かします。腱鞘は腱の浮き上がりを防止する組織であり、滑車のような役割をするもので、その多くは関節の近くにあります。そのため手足を動かすたびに腱鞘には大きな力が加わります。
腱鞘炎とは、その腱鞘に炎症が生じた状態で、炎症を起こした部分での腫れや痛み、動く範囲の制限がみられます。指の腱鞘炎としてばね指、手首の腱鞘炎としてドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)があります。一般に更年期や出産前後の女性、糖尿病やリウマチのある方、手をよく使う方に起こります。

ばね指の症状としては、手のひら側の指の付け根(MP関節)に痛みが起こり、動かしたときに痛みを感じます。親指が最も起こりやすいです。特に朝方に症状が強く、動かしているうちに症状が軽減することがあります。症状が進行してくるとその名の通り、ばね現象(弾発現象)が起こり、さらに進行するとPIP関節が曲がったまま動かなくなります。

ドケルバン病は手指をよく使う女性に起きやすく、症状としては、手首の親指側の痛みと腫れがあります。特に手首を小指側に曲げたり、親指を動かしたりしたときに痛みを伴います。原因として手指を使いすぎた機械的刺激に、閉経や妊娠などホルモンバランスの崩れが重なるためと考えられていますが詳細は不明です。

治療・ケア

ばね指の治療としては、安静や痛み止めの外用・内服、腱鞘内注射、手術があります。ドケルバン病の治療としては、安静や装具による固定、腱鞘内注射、手術があります。装具としてのサポーターは、手首を安定化させ、動きをある程度制限することで痛みを和らげることが期待できます。サポーターの形状としては、手首の小指側への動きを制限できる親指までサポートがついたものが良いでしょう。

  • ①圧迫機能
    サポーター本体で手首を圧迫することで関節を安定させます。
  • ②支持・安定機能
    サポーターのサポートによって関節の安定性を生み出し、手首の動きを適度に制限します。
  • ③保温機能
    手首を温めることで血液の循環がよくなり、筋肉や関節の緊張をほぐします。

注射はステロイドと痛み止めを混ぜたものを打つことが多いです。注射をして2ヶ月以内の短期間に再発する場合や、3回以上注射をしても再発する場合は腱鞘切開などの手術を検討します。

その手首の痛みは“スマホ腱鞘炎”?

「スマホ腱鞘炎」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。スマートフォンの長時間操作で親指を使いすぎることで腱鞘炎(ドケルバン病)を起こしやすくなります。整形外科に手首の痛みを訴えて来られる方の原因を探ると、実はスマートフォンが原因だったというケースが増えています。
これを予防するには、

  • ・スマートフォンを触る時間を減らす
  • ・両手で操作する
  • ・強く握りしめすぎない

といったことが挙げられます。
日常生活に支障が出ないようにこれらの予防を行い、症状が悪化した場合は医療機関を受診しましょう。

TFCC損傷(三角線維軟骨複合体損傷)

症例概要(症状・リスク)

TFCCとは、手関節の尺骨と手根骨(月状骨・三角骨)の間にあるハンモック様構造の軟部組織のことです。クッションの機能をつかさどっていますが、転倒により手をついたり、手首をひねったりすると損傷します。 症状としては手首の小指側の痛み、握力低下、前腕を回したときの痛みやコキっというクリック音が生じます。タオルを絞る動作やドアノブを回す動作で痛みが誘発されます。

治療・ケア

レントゲンでは診断できず、特殊なMRIの撮影方法により描出する必要があります。TFCC損傷には装具治療で治癒するものから手術が必要となるものまで様々なタイプのものがありますが、MRIではそれらを判別することはできないため最終的な判断には内視鏡検査が必要になります。

TFCC組織は一般的にはあまり知られていませんが、手首の安定に大きく関与しています。そのため、治療として手関節を安定させるためにギプスやTFCC損傷用のサポーターを装着する保存的治療を2~3ヶ月行い、それでも症状の改善を認めない場合は手術が検討されます。手術では損傷部位を確認し、TFCC縫合や再建術が行われます。サポーターは、手首を安定化させ、動きをある程度制限することで痛みを和らげることが期待できます。サポーターの形状としては、手首全体を包むサポートがついたものが良いでしょう。

  • ①圧迫機能
    サポーター本体で手首を圧迫することで関節を安定させます。
  • ②支持・安定機能
    サポーターのサポートによって関節の安定性を生み出し、手首の動きを適度に制限します。
  • ③保温機能
    手首を温めることで血液の循環がよくなり、筋肉や関節の緊張をほぐします。

手根管症候群

症例概要(症状・リスク)

女性の妊娠・出産期や閉経前後に多いのが特徴です。他にも仕事やスポーツ、家事などでよく手を使う方や、関節リウマチ、透析、ガングリオン、骨折などでも起こりやすくなります。
症状は、正中神経という神経の支配領域である親指から薬指の半分(親指側)の痺れや痛み、感覚低下が起こります。特に寝るときや早朝に痛みが出やすいです。手根管症候群が進行してくると親指の付け根の母指球が萎縮し、つまみ動作が困難となります。

治療・ケア

治療は、症状が軽度であれば痛み止めやビタミンB12の飲み薬、また手をよく使う方はその負担を減らしてもらうようにして装具を使用することがあります。装具としてのサポーターは、手首を安定化させ、保温によって痛みを和らげることが期待できます。サポーターの形状としては、手首を包み込むものが良いでしょう。

  • ①支持・安定機能
    サポーター本体で圧迫し適度に制限することで手首を支持・安定させます。
  • ②保温機能
    手首を温めることで血液の循環がよくなり、筋肉や関節の緊張をほぐし、神経の通り道が広がりやすくなります。

症状が強い場合や薬を飲んでも効かない場合は手根管を開放する手術が必要となります。親指の付け根の母指球が萎縮しているものに関して母指対立再建術が必要となることがあります。

ストレッチ方法

手首のストレッチ①
下の手の手首と指を曲げて、反対の手で身体側へ引く。
※下の手の手首(背側)が伸張されるようなイメージを持ちましょう。

●手首のストレッチ②
親指を曲げて、小指側へ手首を曲げる。
※親指側の手首が伸張されるようなイメージを持ちましょう。

母指CM関節症

症例概要(症状・リスク)

親指は指の中でも重要な指であり、動く範囲が広い分、不安定になりやすく、母指CM関節は特に変形性関節症になりやすい関節です。つまむ動作や瓶の蓋を開ける動作に親指の付け根が痛くなります。閉経後の中年以降の女性に多いとされています。

治療・ケア

症状が軽度のときは、痛み止めの外用・内服やテーピング、装具固定、関節注射を行います。症状が重症のときは、靱帯再建術や関節固定術、関節形成術などの手術を検討します。装具としてのサポーターは、手首を安定化させ親指の動きをある程度制限することで痛みを和らげることが期待できます。サポーターの形状としては、親指の動きを制限できるサポートがついたものが良いでしょう。

  • ①圧迫機能
    サポーター本体で親指の付け根を圧迫することで関節を安定させます。
  • ②支持・安定機能
    サポーターのサポートによって母指CM関節の安定性を生み出し、親指の動きを適度に制限します。
  • ③保温機能
    親指の付け根を温めることで血液の循環がよくなり、筋肉や関節の緊張をほぐします。

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