2025.07.31
工場や倉庫は熱気がこもりやすい構造なので、オフィスに比べて熱中症リスクが高い作業環境です。
実際、厚生労働省の統計では、製造業における熱中症の死傷者数は全業種の約19%*1 を占め、建設業に次いで多い状況です。
本記事では、法改正の詳細から実践的なチェックリストの作成方法、さらにはWBGT値の活用法まで、職場の熱中症対策を体系的に解説します。
こうした背景を受け、2025年6月からは熱中症対策が法的に義務化*2 されました。対策を怠った場合は、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
本記事では、熱中症リスクが高くなる工場・倉庫の構造的な理由を始め、熱中症対策の具体例を紹介します。
「社員の安全を守りたい」「罰則リスクを回避したい」方は、ぜひ参考にしてください。
*1参考:厚生労働省「熱中症による死傷者数の業種別の状況(2020~2024年)」
*2参考:厚生労働省 富山労働局「職場における熱中症対策の強化について(令和7年6月1日施行)」
工場や倉庫の熱中症リスクが高まりやすい理由は以下のとおりです。
● 構造的に建物内外の日射熱や輻射熱を吸収しやすい
● 高天井空間と無窓設計が空調効率を下げている
● 高温を発する設備周辺は局所的な熱気こもりが起こりやすい
それぞれ詳しく解説します。
工場や倉庫が特に暑くなる最大の原因は、建物の構造と材質にあります。
多くの工場・倉庫では熱伝導率が高い折板屋根や瓦棒屋根が使用されており、夏場の直射日光を受けて屋根表面が60℃以上に達することがあります。その熱が屋内に伝わり、まるで暖房をつけたかのように室温が上がってしまうのです。
また、機器設備から放出される輻射熱も外部に排熱されず内部にこもりがちです。このように建物と機械設備の輻射熱が重なることで極めて危険な環境になるため、温度上昇を抑える遮熱対策が求められます。
工場や倉庫に多く見られる高天井・無窓設計は、空調効率の低下を招く要因になっています。
高い天井空間は上部に熱気が滞留しやすく、その熱気に冷房エネルギーを奪われてしまうため、冷気が作業エリアまで十分に行き届かない現象が発生します。
また、無窓設計は遮光性が高まる一方で自然換気を困難にし、空気の循環を大幅に阻害します。風通しが悪く、熱がこもりやすい環境となっているのです。
こうした構造的な問題により、エアコンをフル稼働させても場内が効率的に冷えず、電力消費量だけが増大する結果となります。
工場などの施設内にある機械設備は、建物の構造に関係なく、屋内で局所的な高温環境を作り出す要因となります。
下記のような機械設備の周辺は、その設備が発する輻射熱で局所的に温度が上昇するため、作業者の熱中症リスクが特に高まります。
● ボイラー
● プレス機
● 乾燥炉
● 溶鉱炉など
これらの熱源の周辺に直接排気口を設置できる場合は局所換気が有効ですが、設置が困難な場合は熱気こもりを防ぐ別の防止策が必要です。
ここまでに紹介した工場や倉庫における熱中症対策で重要なことは、闇雲に手を出すのではなく、現場の特性を正しく把握し、最適な方法を考えることです。
対策の方向性を誤ると、多額の投資をしても期待した効果が得られず、結果的にコストパフォーマンスが悪くなってしまうからです。
工場・倉庫・設備等に応じた熱中症対策の実施前に整理すべき判断軸は以下のとおりです。
● 全体冷却と個別冷却は建物構造と設備の熱源分布で決める
● 導入効果・コスト・設置難易度の3軸で設備を比較する
熱中症対策では、まず「全体冷却」と「個別冷却」のどちらが適しているかを建物構造と設備配置に基づいて判断する必要があります。
具体的には以下のとおりです。
全体冷却が適している場合 |
● 建物全体が比較的密閉されている ● 作業エリアが広範囲に分散している ● 高温を発する設備が少ない、または分散している ● 天井高が比較的低い |
個別冷却が適している場合 |
● 高天井・無窓設計で空調効率が悪い ● 特定のエリアに作業が集中している ● 高温設備の周辺など局所的な対策が必要 ● 搬入口が頻繁に開閉され冷気が逃げやすい |
熱中症対策を整備する際は、「導入効果」「コスト」「設置難易度」の3つの軸で総合的に評価することが重要です。
整備や導入を検討する際の主な評価軸、検討ポイントは以下のとおりです。
評価軸 | 検討ポイント |
---|---|
導入効果 |
● 冷却範囲 ● 温度低減効果 ● 持続時間 |
コスト |
● 初期費用 ● ランニングコスト ● メンテナンス費用 |
設置難易度 |
● 工事の規模 ● 設置期間 ● 業務への影響 |
例えば、すぐに現場で活用したい場合は「設置が簡単で導入効果が高い」ことが最優先になります。一方、電気代を抑えたい企業では、初期コストがかかっても遮熱施工のほうがランニングコストは安くなります。
工場や倉庫における熱中症対策の具体例は以下のとおりです。
● 遮熱塗装・遮熱シート
● スポットクーラー・ダクト式冷風機
● ビニールカーテン
● 大型ミストファン・送風機
● パッケージエアコン
屋根からの輻射熱を根本的に解決するには、遮熱塗装や遮熱シートが有効です。工場や倉庫が暑くなる要因である金属製屋根からの輻射熱を削減できます。
主な特徴は以下のとおりです。
遮熱塗装の特徴 |
● 太陽光(特に赤外線)を反射する特殊な塗料を使う ● 金属屋根の表面温度を10~15℃、室内温度を5~8℃低下 ● 冷房にかかる電気代を15~30%削減 ● 耐用年数10~15年 |
遮熱シートの特徴 |
● 太陽光を反射して、屋根や壁からの輻射熱を遮断 ● 作業空間の温度上昇が和らぐ ● 屋内施工なら紫外線による劣化リスクが低い ● 不燃材認定の製品なら危険物施設にも対応可能 |
ピッキングエリアや作業台周辺など、限られた範囲を効率的に冷却する場合は、スポットクーラーやダクト式冷風機が有効です。
以下に主な特徴をまとめました。
設備名 | 特徴 | 適した場所 |
---|---|---|
スポットクーラー |
● 移動可能 ● 設置が簡単 |
● 作業台 ● 荷捌き場 ● ピッキングエリア |
ダクト式冷風機 | 首振りで広範囲対応可能 |
● 出入口周辺 ● シャッター付近 |
業務用スポットクーラーは家庭用よりもパワフルで、吹き出し口が複数あるタイプなら複数の作業員に同時に冷風を送れます。工場の入口付近や屋外での作業場など、既存の空調設備では対応できない場所でも使用可能です。
倉庫の開放空間で空調効率を改善するには、ビニールカーテンによる間仕切りが有効です。
ビニールカーテンの主な特徴は以下のとおりです。
● 冷暖房の空気が逃げにくくなり空調効率が上がる
● 開放部からの外気の流入を物理的にブロックできる
● カーテンがほこりや虫の侵入経路をふさぐため、防塵・防虫にも役立つ
出入口が頻繁に開閉される場所や、空調の必要ない通路部分と作業エリアを分ける際に特に有効です。
設置も容易で、カーテンレールに吊るして取り付ける方式であれば、毎日の開け閉めが快適にできます。
工場や倉庫などでエアコンの設置が難しい場所では、水の気化熱(液体が蒸発する際に周囲の熱を奪う作用)を利用した冷却機器が有効です。
中でも、大型ミストファンと送風機を組み合わせる方法は気温が高くても冷風を感じやすく、広い空間でも一定の冷却効果が得られます。
大型ミストファンと送風機の組み合わせ効果は以下のとおりです。
● 微細な水滴と送風を同時に使用することで蒸発量が増え、表面温度を下げられる
● 空気を循環させる送風機が室内にこもった熱気を動かし、作業空間の温度ムラを減らす
● 機械構造がシンプルで、水の補充とフィルター清掃だけで日常管理が可能
ただし、湿度の調整ができないという課題があります。ミストを使用すると湿度が上昇するため、もともと湿度が高い場所や、精密機器・食品など湿気を嫌う作業エリアでは注意が必要です。
従業員の熱中症リスクを下げるために空調効率を改善したい場合は、パッケージエアコン(天吊り型やダクト型)の導入が有効です。
倉庫用空調・工場用空調・施設用空調向けのパッケージエアコンの特徴は以下のとおりです。
● 作業員の身体に直接冷風を当てて体温上昇を抑えられる
● 油煙・粉じん・粉体などが舞う作業現場でも使用できる製品がある
● インバーター搭載タイプは、冷房負荷に応じて必要最低限の電力で稼働できる
屋内空調の選び方としては、「冷やしたい範囲の広さ」「作業者の配置」「粉じんや油分の有無」など、現場ごとの条件に応じて適切な機種を選定することが重要です。
空調対策とあわせて以下の記事もぜひご覧ください。
「【熱中症予防】現場で実践!安全を守る対策と応急処置の基本」の記事へ
大がかりな設備導入が難しい場合でも、手軽に始められる熱中症対策グッズは数多くあります。
ただし、使い方を間違えると効果が出にくいものもあるため、グッズごとの特徴を正しく理解することが大切です。
以下では、現場で導入しやすい3つの対策グッズと、メリット・デメリットを紹介します。
ファン付きウェアは、内蔵された小型ファンで服の中に外気を取り込み、汗の蒸発を促進して体温を下げる仕組みです。屋内外を問わず着用でき、高温作業現場や空調が届かない環境での熱中症対策に使われています。
主なメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット |
● 体感温度を下げられる ● 暑さによる集中力の低下を防げる |
---|---|
デメリット |
● 極度の高温環境では効果が限定的 ● 粉じんが舞う場所では使用できない |
その他に注目されている「冷却服」として、ペルチェ×水冷のハイブリッド技術を採用した「メディエイド アイシングギア ベスト2」があります。
準備はバッテリーの充電のみ。酷暑でも5時間冷感が持続するペルチェ×水冷式の「速・軽・快」な冷却服。
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製品名 |
メディエイド アイシングギア ベスト2 |
---|---|
冷却方式 |
ペルチェ素子による電子冷却+水冷循環 |
使用時間 |
約5時間(フル充電時) |
価格(税込) |
159,500円 |
向いている現場 |
● 冷房が届かない場所 ● 高温設備付近 ● 長時間作業 |
特徴 |
● 高温環境でも一定の冷感が持続 ● 薬品や粉塵が舞う環境でも使用可能 |
保冷剤や冷感タオルは、エアコンや空調設備が使えない環境で、身体の一部を直接冷やしたいときに使用する冷却アイテムです。
主なメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット |
● 数秒〜数分で皮膚表面の温度が下がる ● 首筋や脇の下などに当てると、体の中心部の温度を効率的に下げられる ● 市販の保冷剤や冷感タオルは、1個あたり数百円〜1,000円程度で購入できる |
---|---|
デメリット |
● 保冷剤は30〜60分程度で常温に戻るため、冷凍庫や予備の保冷剤が必要。また、低温やけどに注意が必要 ● 冷感タオルの冷却効果は一時的であり、長時間の冷却には不向き |
作業中の発汗によって失われる水分と塩分を補えるのが、経口補水液や塩飴などの塩分補給グッズです。
以下のようなものが現場で手軽に取り入れやすいです。
● 経口補水液
● 塩飴・塩タブレット
● 梅干し・茎わかめ
経口補水液をこまめに摂ることで、体の水分バランスを整えられ、集中力や作業効率の低下も防げます。
一方で、発汗が少ない状態で経口補水液を多量に摂取すると、かえって塩分過多になるおそれがあります。そのため、摂取タイミングや頻度をルール化しておくことが大切です。
上記以外の熱中症対策グッズを知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
「【企業向け】すぐに導入できる熱中症予防・対策グッズ特集」の記事へ
熱中症対策を後回しにすると、現場の安全だけでなく法的罰則の対象にもなります。
構造や設備の影響で熱中症リスクが高まりやすい工場や倉庫などには、以下の対策が有効です。
● 屋根からの輻射熱には遮熱塗装や遮熱シート
● 空調が届きにくい場所にはスポットクーラーやミストファン
● 冷房が難しい現場には熱中症対策グッズ
すべての現場に完璧な正解はありませんが、現状を放置してはいけません。まずは、早く導入できるグッズを揃えることから始めましょう。
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準備はバッテリーの充電のみ。酷暑でも5時間冷感が持続するペルチェ×水冷式の「速・軽・快」な冷却服。
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シグマックス・MEDIAID事務局
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※1:㈱日本能率協会総合研究所調べ。2023年度メーカー出荷額ベース
※2:㈱日本能率協会総合研究所調べ。2020~2023年度メーカー出荷枚数ベース