2025.05.26
毎年のようにニュースで報じられる熱中症。実際に現場で発生した際、企業側に明確な対応フローがなければ、命に関わるだけでなく労災認定や企業責任に発展するリスクがあります。
屋外作業や空調設備の整っていない工場・倉庫ではもちろん、対策を講じている現場でも、わずかな油断が重大な事故に繋がりかねません。
本記事では、企業が整備すべき熱中症予防対策マニュアルの作成方法を、具体的な手順・フロー・緊急時の初動対応、さらには労災認定の基準に至るまで詳しく解説します。
現場と社員の命を守るため、今こそ備えを始めましょう。
熱中症対応マニュアルを整備することは、社員の命を守るだけでなく、企業の信頼を守るためにも必要不可欠です。
作業中に社員が熱中症で倒れた場合、社内に明確な対応ルールがないと現場は混乱し、対応が遅れる可能性があります。
もし、冷房設備の不備や水分補給の指示がなかったなどという事実が判明すれば、企業責任を問われる事態は避けられません。
社員の命を最優先に考えるべきであり、症状が重篤化すれば命に関わる重大な事態となります。また、労災として認定されることで、企業には補償義務が生じる可能性もあります。さらに、訴訟や報道によって企業の社会的信用が大きく損なわれるリスクも現実的に存在します。
熱中症はいつ発生するか分かりません。「自社には関係ない」と思わずに、「誰が・いつ・何をすべきか」を明文化したマニュアルを事前に整備することが、経営リスクを最小限に抑える最善策となります。
現場での応急処置を誰もが実施できるようにするには、「何を・どのように行うか」を明確に決めておくことが必要です。
厚生労働省のガイドラインでも、熱中症は予防可能な災害であり、予防と初動対応の徹底が最も重要とされています。
参考:厚生労働省「職場における熱中症予防対策マニュアル」
実効性のあるマニュアル作成の土台となるのは、次の5ステップです。
1. 対応内容の明確化
2. 社内体制の整備
3. 対応フローの文書化
4. 連絡経路の明示
5. 教育・訓練による社内浸透
それぞれ詳しく解説します。
熱中症の初期対応は最初の数分が重要であるため、「何をすべきか」「どの順で動くか」をあらかじめ決めておくことが大切です。
例えば、以下のような対応を想定しておくとよいでしょう。
1. 倒れている社員を発見したら、すぐに声をかける
2. 反応がなければ、ただちに119番へ通報し、応急処置を開始する
3. 意識がある場合は、日陰や冷房の効いた場所に移動させ、水分・塩分を補給させる
4. 上司や衛生管理者にすぐ報告する
上記の内容を文章として明文化することで、何から始めればよいかが明確になり、誰でも迷わずに行動できるようになります。
役割が明確になっていればどのような状況でも落ち着いて対応できるため、事前に社内の役割分担と体制を整備しておくことが大切です。
以下のような役割をあらかじめ設定しておくと、いざというときに迷わず動けます。
担当者 | 役割内容 |
---|---|
現場責任者 | 状況確認と初期指示の発出 |
応急処置係 | 冷却グッズの使用、水分・塩分の提供 |
通報係 | 119番通報と、必要に応じて家族への連絡 |
報告係 | 上司、人事、安全衛生担当への報告 |
「誰が・どの順番で」動くのかを決めておくだけで、現場に統一感が生まれ慌てずに対応できるようになります。
対応の流れを文書化すると現場の混乱を軽減できるため、マニュアルには「熱中症対応フロー」をフローチャート(流れを図で示す形式)として明記すると効果的です。
言葉だけでなく図やステップで示すことで、誰でも理解しやすくなります。
以下は一例です。
1. 【発見】倒れている社員を見つけたら、まず声をかける
2. 【判断】反応がなければ、すぐに119番へ通報
3. 【応急処置】安全な場所へ移動させ、水分補給・体の冷却を行う
4. 【報告】上司・本社・安全衛生管理者へ連絡する
5. 【記録】発生時刻や処置内容を記録として残す
救急対応時の連絡ルートを事前に整理しましょう。
熱中症のような緊急時は一秒でも早く行動することが大切です。「まず誰に連絡すればよい?」と迷っている時間はないため、事前に救急や社内の連絡先を一覧にしておくことが必要です。
以下は連絡経路の一例です。
1. 救急(119番)への通報
2. 直属の上司への連絡
3. 安全衛生管理者または総務部への報告
4. 必要に応じて家族への連絡
なお、夜間や休日など時間帯によって連絡先が異なる場合は、あらかじめマニュアルに明記しておくと現場での混乱を防げます。
熱中症対応マニュアルを社内に導入したあとは、安全教育と実地訓練が必要です。
資料で内容を確認しただけでは、いざというときに的確に行動できない場合があります。
訓練では、以下のような流れをロールプレイ形式で実践させると効果的です。
1. 倒れている社員を発見⇒声をかける
2. 意識の有無を確認⇒119番に通報
3. 応急処置を実施⇒上司に報告
実践的な訓練を繰り返すことで、マニュアルの内容が「知っている知識」から「使える行動」へと定着します。
また、マニュアルは一度作って終わりではなく、都度内容を見直し、最新の働き方や現場状況に応じてアップデートすることも大切です。
「意識がある場合」と「意識がない場合」に分けて、会社ですることを紹介します。
現場で慌てないための判断基準と行動例を整理しておきましょう。
意識がある場合は涼しい場所で安静にさせ、応急手当によって症状の回復を図りましょう。
熱中症の応急処置で重要なのは、症状を悪化させず早期に落ち着かせることです。
意識がある状態なら、以下の手順に従って適切に対応してください。
緊急対応手順 | 詳細 |
---|---|
①涼しい場所へ移動する | 直射日光や蒸し暑い場所を避け、クーラーの効いた室内や日陰へ誘導します。 |
②体を冷やす(首・わきの下・足のつけ根) | 保冷剤や冷たいタオルを使用し、効率的に体温を下げます。冷却グッズの常備も効果的です。 |
③水分と塩分を少量ずつ補給する | スポーツドリンクや経口補水液を少しずつ、ゆっくりと飲ませましょう。一気に飲ませると逆効果になる場合があります。 |
④状態を観察する | 返答がおかしい、ふらつく、顔色が悪いなど異常が見られた場合は、ただちに119番に通報してください。「少し回復したように見える」としても油断は禁物です。 |
意識がなければ命に関わる緊急事態のため、すぐに119番します。
呼びかけに反応がない、意識が確認できない場合は、会社として迅速かつ適切に初期対応を行う必要があります。
以下の流れを社内で共有し、実際の現場でも迷わず行動できるよう備えておきましょう。
緊急対応手順 | 詳細 |
---|---|
①119番へ通報する | 「職場で熱中症の疑いがある社員が倒れている」と伝えます。住所・ビル名・階数・入口の位置など、必要な情報を正確に伝えられるよう、マニュアルに明記しておくことが重要です。 |
②体を冷やす(首・わきの下・足のつけ根) | 救急車の到着を待つ間、首・わきの下・足の付け根に氷や保冷剤を当てて体温を下げます。氷や保冷剤がない場合は、水で濡らしたタオルやハンカチで、出来る限り体を冷やします。 |
③安全な姿勢をとらせる | 仰向けに寝かせ、嘔吐のおそれがある場合は横向きにして、気道を確保します。呼吸がしやすい体勢を保ちましょう。 |
④現場の状況を整理する | 作業内容、発見時の様子、時間の経過などを記録し、救急隊へ正確に伝えられるよう準備しておきます。 |
熱中症は労災として認定される可能性があります。企業側の対策不足が明らかになった場合、法的責任は免れません。
職場で熱中症が発生した際に重要視されるのは、次の2点です。
● 業務が原因だったか(業務起因性)
● 企業が必要な配慮をしていたか(注意義務)
以下のような状況があった場合、労災と認定される可能性が高くなります。
● 炎天下での長時間の屋外作業があった
● 空調のない室内で勤務していた
● 適切な水分補給や休憩が確保されていなかった
● 作業前のリスク説明や体調確認が実施されていなかった
つまり、「熱中症は防げたはずなのに、会社が何の対策も講じていなかった」と判断されると、労災認定に加え、損害賠償請求や企業イメージの失墜といった深刻な影響が生じます。
「熱中症で労災になるのはどのようなケースか」「企業に求められる責任とは何か」など、さらに詳しい内容は以下の記事もあわせてご覧ください。
「熱中症による労災リスクと企業の責任|法的対策ガイド」の記事へ
引用:厚生労働省「令和5年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」
近年、職場における熱中症リスクは深刻化しています。
厚生労働省の統計によると、2023年には1,106人が熱中症で倒れ、そのうち31人が命を落としました。
もはや暑さは「体調不良」ではなく「命に関わる労働安全上の問題」として企業が責任を問われる時代です。
特に建設業、製造業、倉庫・物流などの空調が整っていない現場では、従来のこまめな水分補給だけでは対応しきれません。
だからこそ、マニュアルの整備に加えて熱中症を未然に防ぐために作業環境の改善やシフトの見直しなど、全体的な体制づくりが求められます。
次項では、実践的に取り組める2つの予防策を紹介します。
空調が効きづらい現場では、個人ごとの冷却による対策が不可欠です。工場、建設現場、倉庫などでは室温が40℃を超えることも珍しくありません。
そうした過酷な作業環境で注目されているのが、ネッククーラーや冷却ベスト等の「パーソナル冷却アイテム」の導入です。熱中症予防・対策グッズの記事も参考にしてみてください。
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従来の熱中症対策アイテムが抱えていたさまざまな課題に対応できるアイテムです。「空調設備までは用意できないけれど、何かしら対策を取りたい」とお考えの企業の方は、ぜひご参考ください。
熱中症を防ぐには、水分補給だけでなく働き方そのものを見直すことが大切です。
設備を整えても、働き方そのものが暑さに対応していなければ熱中症の発生リスクは残ります。
特に重要なのが、「いつ働くか」「どう休むか」の視点から勤務体制を調整することです。
以下のような取り組みが効果的です。
● WBGT値(暑さ指数)を確認し、基準を超える場合は作業の中止または短縮を検討する
● 30分ごとに水分・塩分を補給する時間を設ける
● 塩分タブレットや経口補水液を常備し、誰でもすぐに利用できる状態にする
● 朝礼時に体調チェックシートを活用し、体調不良の早期発見につなげる
こうした対策をマニュアルと連動させ、毎日の業務に自然に組み込んでいくことが、継続できる熱中症予防につながります。
熱中症は正しい知識と体制があれば防げる事故です。だからこそ、マニュアルを整え、具体的な行動フローを共有し、日々の業務へ自然に組み込むことが求められます。
熱中症対策を現場に定着させるには、以下の取り組みが効果的です。
● 応急処置の手順をマニュアルに明記する
● 社内での役割分担をあらかじめ決めておく
● 定期的に教育・訓練を実施し、習慣化させる
「何から手をつければよいのか分からない」という場合は、まずはチェックリストの作成から始めましょう。できることを一つずつ積み重ねていくことが、確実な備えにつながります。
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※2:㈱日本能率協会総合研究所調べ。2020~2023年度メーカー出荷枚数ベース